低圧配電システム「TLDシステム」
  TOENEC Low-voltage Distribution System
                                  ㈱トーエネック
                                       伊藤 公一
1.はじめに
 従来から、自家用電気工作物の低圧配電システムにおける接地方式は、直接接地方式および用途の異なる接地極(A種~D種等)をそれぞれ単独に設ける個別接地方式が多く採用されている(以下、「現状システム」とする)。
 この現状システムは、インバータやOA機器などが多数導入される最近の建物において、ノイズ障害や漏電遮断器(ELCB)の不要動作障害など、様々な問題が顕在化している(1)(2)。特にノイズ障害は、事後の調査や対策が困難であり、多大な時間と費用を浪費することになるため事前対策を行うことが望まれる。
 当社では、上記問題の解決策として、TLDシステム(以下、「本システム」とする。)を提案しており、既に、半導体工場や病院等へ多くの実績を持つ。
 以下に、現状システムの問題点と本システムの概要について紹介する。

2.現状システムの問題点
 現状システムにおける主な問題点を以下に示す。
【問題点1】:インバータによるノイズ障害
 最近の建物では、省エネルギーや制御性のメリットからインバータが多用されている。インバータの高周波漏れ電流は、図1に示す通り、インバータの2次側電路から大地に流れ、再びB種接地極から電路に進入し、元のインバータへ還流する。
また、対地静電容量(浮遊容量等)を通して隣接の変圧器バンクに回り込む場合もある。
 このように、最近の建物ではインバータの高周波漏れ電流が建物内を広範囲に流れることから電磁環境が悪化しており、放送設備や情報通信設備等にノイズ障害を発生させる場合がある(1)
 ノイズ障害が発生した場合、その原因調査は困難を極め、多くの時間と費用を浪費する。仮に、ノイズ源が見つかったとしても、①設備を停止できない、②対策機器の設置スペースが無い、などの様々な制約条件により対策は容易でなく、事前対策を行うことが重要である。

【問題点2】:ELCB等の不要動作障害
 最近の建物内では、OA機器等の電子機器が多用されている。一般に、電子機器の電源部分には、ノイズ除去を目的としたフィルタが付加され、電路と大地との間にコンデンサが接続される。また、電子機器を多用すれば、機器への配線量が増えるため、配線の浮遊容量が大きくなる。このため、電子機器を多用した建物では、低圧電路の対地静電容量が大きくなる。
 対地静電容量が大きくなると、商用周波数の漏れ電流が増加し、わずかな絶縁劣化等によって漏電遮断器(ELCB)や漏電警報器(ELR)が不要動作しやすい。
 また、図2に示す通り、地絡事故が発生した場合、地絡電流が対地静電容量を通して隣接の変圧器バンクに回り込み、ELCB等を不要動作させる場合がある(2)。これらの対策として、ELCB等の整定値を高くすることが考えられるが、感電、火災等の安全面のリスクは高くなる。













  
図1 インバータによるノイズ障害         図2 地絡電流の回り込みによるELCB等の不要動作


【問題点3】:感電および火災危険性
  図3に示すように、現状システムでは、D種(又はC種)接地抵抗がB種接地抵抗より大きい場合、接触電圧が電源電圧に近づき感電の危険性が高くなる。
また、地絡電流や漏れ電流が大きいので火災が発生する危険性も高い。




                 図3 感電および火災危険性

【問題点4】:接地電位差による絶縁破壊
  図4に示すように、現状システムでは、建物への落雷があった場合、異なる接地極間に大きな電位差が発生し、電子機器内部で絶縁破壊を生じる場合がある。





                     図4 接地極間の電位差による絶縁破壊

3.TLDシステムの概要
 本システムには、新設対応型と既設対応型がある。
 3-1 新設対応型TLDシステム
  本システムは、2項で示した現状システムの問題点を
  全て解決するものである。
  図5に本システムの基本構成を単線結線図で示す。
  同図に示すように、本システムは以下の3つの要素で
  構成される。
  ① 非接地式電路
  ② 地絡電流補償装置
  ③ 構造体共用接地

                  図5 TLDシステムの基本構成

(1) 非接地式電路の効果
  非接地式電路は、混触防止板付の高低圧変圧器を採用して低圧電路を非接地とするものである。以下の理由によ
  り、2項の問題点2および3の解決策となる。

 a.問題点2 (ELCB等の不要動作障害)の解決
  非接地式電路は、電路の接地(B種接地)を行わないため零相インピーダンスが極めて高く、零相電流(漏れ電
  流や地絡電流)が非常に小さくなる。また、各変圧器バンクの低圧電路がB種接地線で連接されないため、隣接
  の変圧器バンクに回り込む地絡電流も小さくなる。したがって、ELCB等の不要動作を防止できる。

 b.問題点3(感電および火災危険性)の解決
  非接地式電路は、従来システムにおけるB種接地抵抗が無限大になったものと考えることができる。したがっ
  て、図3に示した式から接触電圧はほぼ0Vとなり、感電事故を防止できる。また、漏れ電流や地絡電流が極めて
  小さいため、電気火災の危険性も極めて小さい。

(2) 地絡電流補償装置の効果
  本装置は、問題点1の対策として開発したものである。
  非接地式電路は、地絡電流が小さくなるので地絡事故の検出が困難になる。
  このため、一般に地絡電流を補償するための接地コンデンサが電路に設置される。コンデンサは、周知の通り、
  周波数が高くなるとインピーダンスが小さくなる。このため、負荷にインバータ等の高周波スイッチング機器が
  接続されている場合、高周波漏れ電流が接地コンデンサに流れ込むことになり周辺の電子機器へのノイズ障害等
  が懸念される。
  本装置は、接地コンデンサを平常時は大地から切り離し、高周波漏れ電流が流れ込むことを防止し、地絡事故発
  生時には、零相電圧を検出し、速やかに接地コンデンサを大地に接続してELCB等を動作させる。また、この
  とき、地絡警報の発報を行うことも可能である。

(3) 造体共用接地の効果
  構造体共用接地とは、電気設備技術基準で定められているA種、B種、C種、D種の各接地線を全て鉄骨等の建
  物構造体に接続し、建物の基礎を接地極の代用にするものである。
  接地を共用することにより、接地電位差による絶縁破壊の恐れが無く、また、複数の接地極を布設する必要が無
  くなる。したがって、2項の問題点4の解決策となる。ただし、採用の条件は、建物基礎の接地抵抗が2Ω以下
  の場合に限る(電気設備技術基準の解釈による)。
  構造体共用接地には、この他以下のメリットがある。
 ① 接地幹線に利用する鉄骨は、電線を使用する場合より低インピーダンスであるため、建物内を等電位化でき、電
  子機器の安定動作に寄与する。
 ② 接地極、接地幹線が不要のため、経済的なメリットがある。

 3-2 既設対応型TLDシステム
  新設対応型では、非接地系統を構成する方法として、
  混触防止板付高低圧変圧器を使用している。しかし、
  このような変圧器を一般に使用することは少ない。
  このため、既設対応型では、混触防止板付高低圧変圧
  器に替えて、一般の変圧器のB種接地線に、高低圧混
  触事故時のみ導通するスイッチである「対地電位抑制
  装置」を接続して非接地系統を構成する。
  「対地電位抑制装置」は、平成15年度の電気設備技
  術基準適合評価委員会(日本電気協会)において安全
  上問題の無い装置であることを認められている。
   本システムの基本構成を図6に示す
                     図6 既設対応型TLDシステムの基本構成

4.実験による検証 
 本システムを当社本店ビル(名古屋市)に導入し、従来システムとの比較を行った。本店ビルでは、本システムと従来システムの切り替えが行えるように設備している。
 本店ビルの設備概要を以下に示す。
(1) 変圧器構成
 ・ 電灯1,2(1φ3W210-105V、2バンク)
 ・ 動力1,2(3φ200V、2バンク)
(2) 接地コンデンサ  
 4μF×3(各変圧器バンクに設置)
(3) 接地抵抗(測定値)   
 A種:4.5Ω B種:5.5Ω D種:0.5Ω
(4) 電路の対地静電容量(測定値)
 電灯1:1.8μF 電灯2:2.4μF
 動力1:0.5μF 動力2:0.6μF

 評価項目は、漏れ電流、地絡電流(隣接変圧器バンクへの回りこみ電流を含む)、インバータ(エレベータ)の高周波漏れ電流の4項目とした。結果の一例を表1、表2および図7に示す。

<漏れ電流(表1)について>
 本システムに比べて従来システムの漏れ電流は極めて大きい。特に動力回路は対地静電容量が電灯回路より小さいにも係わらず、漏れ電流が極めて大きくなっている。これは、通常、動力回路ではΔ巻線の一端子にB種接地を施すため、零相電圧が大きくなっていることによる。

<地絡電流(表2)について>
 地絡電流は、従来システムでは接地抵抗(B種+D種)に、また本システムでは接地コンデンサによってそれぞれ制限された値になっており、従来システムは本システムより極めて大きくなっている。

<回り込み電流(表2)について>
 従来システムの場合、電灯2の回路に100mAを超える電流が回り込んでいることがわかる。これは、例えば、感度電流100mAの漏電警報器を設置した場合には、不要動作することを示唆している。これに対し、本システムの回り込み電流は極めて小さい。

<高周波漏れ電流(図7)について>
 インバータ式エレベータが運転すると、従来システムにおけるB種接地線に図7のような高周波漏れ電流が流れる。これに対し、本システムは接地コンデンサを通して流れる高周波漏れ電流が極めて小さくなっていることがわかる。
 また、この高周波漏れ電流に起因して発生する電界強度の測定も合わせて行っており、本システムは従来システムに比べ、電気室内の電界強度が極めて小さくなることを確認している。
 以上の結果から、本システムは、現状システムと比較して、漏れ電流、地絡電流、回り込み電流、インバータの高周波漏れ電流の全てが極めて小さく、EMCおよび電気安全の面で優れていることがわかる。

      表1 漏れ電流    単位:mA         表2 地絡電流および回り込み電流 単位:A





 図7 高周波漏れ電流の比較





   (a) 従来システムの場合                           (b) 本システムの場合

5. 関連技術の動向
 欧米では、TN方式という接地方式が主流になっている。この方式は、日本の接地方式で言えば、B種接地とD種接地を共用する場合と同等である。特に、保護接地線(PE)と中性線(N)を共用にしない方式をTN-S方式といい、EMCに有効とされている。しかし、以下の点について懸念される。

① TN方式では過電流遮断器による地絡保護が一般的であるが、地絡時に短時間遮断領域となる短絡電流相当の大電
  流が流れるので、保護協調が困難になる。
  また、遮断に伴う電極の劣化も大きくなる。
② 絶縁物を介した地絡事故が発生した場合、過電流遮断器で保護できず、電気火災に至る危険性が高い。
③ 零相インピーダンスが極めて小さいので、インバータの高周波漏れ電流が大きくなり、電磁障害が発生しやすい。

 また、学会などの動向をみると、EMCに有効な構造体共用接地(統合接地とも呼ばれる)が注目されている。
 しかし、B種接地を他の接地と共用することは、先に述べたTN方式と同等になり、上記①~③の問題が懸念され
 る。

 ①、②の解決のため、B種接地線にB種接地抵抗に相当する10Ω程度の抵抗を挿入して地絡電流を抑制し、漏電遮断
 器(または、漏電リレー)を使用して地絡検出を行う方法が提案されている(3)しかし、この方法は、図1に示すイ
 ンバータの高周波漏れ電流の流れるルートのインピーダンスは、現状システムと変わらないために、③の対策には
 ならない。
 これらに対して、本システムは、3項および4項で示したようにEMCおよび電気安全面に優れている。

6. おわりに
 2項に示したインバータによるノイズ障害やELCBの不要動作障害などは、今後、インバータやOA機器の多用
 により、工場だけでなく一般のビルでもさらに増加すると考えられる。
 本システムは、これらの障害を比較的安価に解決するものである。
 本システムが今後のIT社会を支えるインフラ技術となることを期待する。

<参考文献>
(1) 例えば,酒井:「誘導障害と接地システム」,電設技術pp.64-68(2007-9)
(2) 例えば,森下:電気設備トラブル対策pp.82-89(平成18年),オーム社
(3) 昼間:「品川インターシティーの統合接地システム」,
  電気設備学会誌Vol.19,No.10,1999