「オモパラクッカー」
                       カシオ計算機㈱ 現在フリー
                                地域少年のボランティア 山下 優
ヒント

 所在なく、ごろ寝テレビのナガラ視でチャンネルを適当に切り替えていたらタイ国の街道風景をバラエティ風にレポーターが取材している映像が飛び込んできた。
 カンカン照りの中、穴のあいたデコボコの舗装道路を大勢の人々がゆったりと行き交わっている。
 カメラがぐるっと回って痩せぎすの目付きの鋭い一人の男性を映し出した。ニコリともせず何か品物を真剣に売っている。二言三言、言葉があって男の手元がクローズアップされた。そこには数本の串刺しの焼き鳥が並べられていた。彼は露天の焼き鳥屋だった。
 再びカメラが回った。今度は何やら異形の構造物を映し出した。それは屏風のような枠組みをしていて結構大きい。その枠組みには手の平より多少大きめのきらきらと光る小さな部品がきちんと並べて取り付けられている。その部品をカメラはまたクローズアップした。手鏡だ。
相当な数の手鏡を枠にぶら下げたその構造物は太陽を真正面にしてそそり立っていた。この屏風ごとき代物の中心にこの男の商売品、竹串に刺された鶏肉が何本か並べられていた。
判った!、これ、手鏡利用太陽熱集熱器、パラボラクッカーだ!このところエコの話題がマスコミでもとりあげられるようになってきた。原理そのもののこの装置はシンプルで わかりやすい。俄然興味が湧いてきた。これ、いいんじゃないか!
地域の子供体験教室

 おもろば大南という地域の小・中学生を集めて体験遊びさせる活動に参加している。
 「大南子供おもしろ広場体験教室」がフルネームで「子供も大人も一緒に体験遊びを楽しもう」という目的で有志の人々で8年前に立ちあげられ現在に至っている。
 参加する子供たちは地域の小学生、中学生で登録制になっている。
 昔遊び、化石採集~標本つくり、縄文調理遊び、農作業~収穫祭、理科実験パズル、科学工作などなどがあり、 年行事としては地域のお祭りに参加、ここでキッザニヤ風テントを張って「おもろばグッズ」の販売体験をする。
 「おもしろ科学工作」これが私の担当で、理科・算数の原理を身近にある材料を使って工作遊びで楽しみながら 知ってもらおうとしている。
 パラボラクッカーに興味をひかれたのはこの背景があったからで、作ってみようかなという思いが閃いたのは このテーマ担当としての成り行きだったわけです。
企 画

 「パラボラで太陽熱を集めて調理体験をしてみよう」、思いつきを早速スタッフに持ち込んだ。了解は即決、企画案の作成に取り掛かった。
 ネットで検索すれば設計情報は簡単に手に入ると思っていたのだがこれが甘かった。検索ではクッカーの商品カタログばかりがあふれていてどうもおもしろくない。結局、自前で考えることにした。初歩の問題がある。焼き鳥をつくるのにはど
れくらいの大きさのパラボラが必要なのか? ネット情報のあてが外れたわけで、出だしからつまずいている。何とかしなくてはならない。やむなく近場の図書館を訪ねた。本棚の前をうろついてみたけれどこれという書籍は見当たらない。
所詮、パラボラ設計の手引きなんて都合のよい本があることを期待すること自体が甘いのだ。ふと思いついた。理科年表、そう、あれに太陽関連のデータがあるのではないか。再び本棚の前、しかしこの年表が見当たらない。やむなく司書の方に所在を訪ねてみる。うーんと言って考えている。あのような本は見る人もまずいないのだろう。ちょっと間があって「こちらです」。図書室の片隅のなんという分類に入っていたのかは忘れたけれど、とにかくとてもわかりにくいところに目的の理科年表は置いてあった。
 久しぶりにこの小型の分厚い書籍を手にした。版は4年前のものだけどそんなこと構わない。パラパラっと見る、スッとページがすぎて何もヒントになるものが引っかかってこない。ジワリとあせりが生まれてきた。スタッフにはすぐできるような言い回しでかっこよく話をしてしまっている。困った。軽率は癖だから仕方ない。ちょっと弱気になりながら慎重に索引を見る。太陽・太陽・太陽・・・。
にらめっこすることしばらく、「正午直達日射量瞬間値の月平均」という項目が目に飛び込んできた。ん! これ使えそう。 ページを開く、単位面積当りに降り注ぐ太陽熱を実測した月平均の瞬間値が記載してある。 よかった!これ使える!後は計算だけだ。やれやれである。肩から力がすっと抜けた。
でも、ほっとしたのはつかの間で、また難問が湧きあがってきた。焼き鳥を焼くってどれくらいの熱量がいるのだろうか? この問題については流石に参考文献なんてものは期待できない。深く考えもしないでしゃべってしまった話は後が怖い。 焼き鳥はずいぶんと食べたけど、焼きあがる火力なんて気にしたことはない。
結局、エイヤで決めた。20℃の水1リットルを15分で100℃にするとした。根拠はあいまいで模糊。何しろ焼き鳥と水の相関関係なんてことも飛躍があり過ぎて知る由もない、根拠はと言えば自宅のガスコンロをガチャガチャと捻ってお湯を沸かして「こんなものかなあ」と個人的に感じただけで、この判断は恥ずかしくてあまり人には言えない。
設計・パーツ製作

 パラボラの焦点位置は外周の高さとした。
パラボラの外に焦点を置くと周辺の「もの」を燃やしてしまう危険がある。火事になる、実際に事件は有ったらしい。危険は避けなければならない、やはり焦点の位置は面の高さが限度だ。構造要求のこの1件はこれで良い。後は計算だけ。太陽熱を受けるパラボラの必要表面積を計算、続いてパラボラの直径を割り出した。1.8mと出た。スタッフと2回目の話し合い。クレームがついた。「だめだよそんなに大きいのは、子供の手が届かない」ごもっとも。子供仕様でどのくらいの大きさががいいのか。結局、直径1.5mと結論づけた。
 この寸法で熱量が足りるのかどうかは判らない。まずは試作機という名称で性能確認をすることにした。
 パラボラを設計、構造は木製でねじ止め組み立て式、子供たちが組み立てられる仕様だ。続いてパーツを設計、仕様に合う材料を指定、部品表ができた。この部品表を手に材料の仕入れに走る。行先は100均ショップ。このお店、なんでも売ってる。驚きを感じる。たかが100円なんて言っては失礼という気持ちになる。
仕入れした材料を目の前に山積みにした。結構な量だ。そのボリュームにたじろぐ。中学校の工作室の設備を使わしてもらえないか交渉、了解を得た。よかった。
幸いなことに必要な工作機器はここにすべてそろっていた。スタッフとお父さん方の協力で朝から作業に入る。即席の作業チームとは思えない。順調に作業を終了、
試運転の日にちを決めて本日は御苦労さん。


組立・試運転&性能確認

  反射板となるプラスチックの板を計算の寸法で切り出し、反射フイルムを張り付ける。これですべてのパーツが揃った。 組立てが始まる。部品の加工寸法は思いのほか精度良好。1.5mのクッカーの姿が徐々に見えてきた結構でかい。 組上がったパラボラクッカーを晴天の公園中央に引っ張り出してセット。天気は良い。太陽の光を受けて焦点部分が白っぽく 輝やいた。
  この装置、遠めに見ても結構派手だ。周囲の人たちが興味深げに集まってきた。装置を太陽に正確に正対させる。最初は「燃焼テスト」だ。新聞紙を筒状に丸めてパラボラの焦点に近づけた。 1秒、2秒、紙が焦げる匂いがして煙が出てきた。3秒ほどで炎が出た。結構凄い。

目玉焼き

  フライパンにサラダ油を少し入れて生卵を落としてみた。 一瞬静止した状態があって、すぐに卵白が白色に変わる。 黄身は7分くらい。これで目玉焼きができあがった。焼けていく状態が目で見ていてわかる。待ち時間はそう気にしなくてよさそうだ。おもしろい。食べてみた。ガスコンロで焼いた目玉焼きよりも滑らかで、軟らかくて、しっかりしていて口当たりがよい。おいしいという
評価がでた。成功である。

焼き餅

 お餅をあみの上に乗せて焦点部分にセットしてみた。煙が出ない。シーンとした感じで極めて静的である、???。
しばらくそのままにして置いたら、急に乗せていた1個のお餅の横っぱらが膨らんだ。焦げ目はない。 赤外線だ!低温やけどのように中から加熱されている。これはおいしそうではない。お餅の焼き方は考え なくてはならない。


ウインナー

  目玉焼きと同じ。フライパンに少量のサラダ油を入れて炒める感じで焼いた。 しばらくするとフライパンの温度が上がりピチパチという音がして脂がはじけ飛んだ。ウインナーの表面も焦げ茶色に変わってきた。
妙な音がしてウインナーの横腹が裂け、大きな油玉が飛んだ。
大成功、一回で数個のウインナーが焼ける。
量産向きでこれは良い。 ただし、ウインナーには切れ目をつけておいた方がやけどをしなくて済みそうだ。

焼き鳥

 本命の登場だ。
鶏肉を串にさし塩を振る。パラボラの焦点に金網を取りるけその上に鳥クシを並べた。3分時間が経過した。鶏肉が白っぽく変色してきたけれど大きな変化は現れない。 5分、鶏肉に付いていた皮の部分から脂が滴り落ちてきた。
煙は出ない。 焼き餅と同じだ。赤外線が肉の内部に浸透して表面は焼けずに、内側からローストされてきている。 にらめっこ数分、取り出して肉片を切ってみるとすでに全体にきれいに火が通っていた。
  試食、これは結構おいしい。歯あたりも軟らかくて仕上がり上々だ。
ただし、子供向けということについてこのレシピは若干の抵抗感が芽生えていた。
 1.5mパラボラは、調理器としての性能はこのサイズでも十分に備えていいることが分かった。
試作器は1号機と名称が変わった。
  実際に運転してみて熱源が炭火などとは性質が全く異なっていることを知らされた。 赤外線は浸透して物の内部の温度を上昇させる、これが性質だ、直火表面焼きとは全く異なる。
焦げ目をつけたい調理品はフライパンなどの容器を高温にしておいて、その高温度を利用して食材を加熱すればよいということが判った。

ネーミング

 これはスタッフと手伝ってくれたお父さんたちに提案を募った。
結局、おもしろ広場から「おも」、パラボラの「パラ」そして機能としての「クッカー」を組み合わせ、名称を 「オモパラクッカー」と決めた。まあ、語呂も悪くはない、覚えやすい、いいんじゃないか。


教室開催

  当日、子供たちが集まってきた。お父さん、お母さんと一緒の 子もいる。
おはようございます。まずは太陽熱の蘊蓄とパラボラ調理器の話を全員にする。
子供たちへの質問もする。物知りの子は自分の知っていることを大きな声で話す。 「ぼくつくったよ、ビニ傘にね、アルミホイル張って、お茶の筒に 水を入れておくとゆで卵ができるんだ!」
しばらく子供たちの自由な声が飛び交った後、いよいよ オモパラクッカーの組み立てになる。
まずは骨組み、部品を ネジで止めていく。真剣だ。子供同士が上下で協力して組み 立てていく、そして反射板を取り付ける。


  クッカーの姿が子供たちの前に顕わになった。「すげー、でっかい、俺ウインナー持ってきた!」 最後に台車に乗せて運びだし、隣接している公園の中央にクッカーを備え付ける。
天気は良い。クッカーはまぶしく太陽の光を集め始める、焦点の位置にフライパンをセットした。
参加した子供たちは濃いめのサングラスを全員着用する。目を 太陽光の反射から保護するためだ。 サングラスをかけた子供がクッカーの回りを走り回る。大勢のちびギャングが出現した。 その姿が結構様になっていてかわいらしい。
こどもの一人がクッカーの焦点近くに手を入れた。 「アチィー!◎?X△☆□ムニャムニャ」、自然は凄い! 肌で実感、目で確かめる。理論は後、現象を知る、このことが 重要だ。

「君もやってみな」、怖気づいた子供は逃げていく。
フライパンにサラダオイルを少し注ぎ込む、お餅を数個放り込む、 油がすぐに跳ね始める、餅の表面が茶色になった。プッと 膨らんだところで取り出し、ちょっとさまして食べる。おいしい。 目玉焼き、焼きウインナーも調理。
目玉焼きは自分で卵を割って自分でフライパンに入れる。 焼きあがってくる食材の変化を興味深げに見ている。 「いいか?」「まだ半熟」「もう少し!」。
サングラスをかけた男の子が神妙な顔をして公園の片隅で 目玉焼きを食べている。
「おいしいか?」「 うん、今まで食べた目玉焼きの中で一番 うまい!」、神妙な顔付きがなかなかよい。
焦げ目のついた焼き餅も、しっかり熱の通ったウインナーも好評だ。あっという間に売り切れた。
子供たちの感想、「今日は楽しかったですか?」に、全員が 「おいしかった!」。
太陽熱はおいしいものだ、こんな発想が彼らの気持ちに残ってくれれば、これはこれで大成功なのだ。
体験教室雑感

 工作をしている時の子供たちの目はいつもきれいだと感じる。言葉では言いあらわせない。
工作が完成して「ヤッタ!」と叫んだときの子供たちの表情は輝いていてさらに生き生きとしている。
リニヤモーターカーの御先祖;永久磁石で車体もどきを浮きあがらせてスライドさせる。

 光を食べるパンダ;光電素子を使って懐中電灯を向けるとモーターが回って後をついてくる。
 電気パン焼き器;電極の間にホットケーキミックスの粉を溶いて入れて100ボルトを懸ける。 ふかふかとした蒸しパンのような代物が10分ほどで出来上がる、結構おいしい。
 ダイオードラジオ;鉱石ラジオの代替え、バリコン・コイルは手作り、放送を捉えた時、感動がある。
 わたあめ機;複雑でちょっと難しい。砂糖はアルミ缶の底を加工したドラムで溶かす。熱源はニクロム線、回転は直流モータ。穴をあけたドラムに砂糖を入れる。溶け始めたら回転、直径10センチメートル位のわたあめが自分で作れる。とても評判がよい。
 などなど、子供たちは動きのある機能工作が大好きだ。狙いの機能が実現したその瞬間、彼らの感動が直に伝わってくる、理科・算数が苦手という子供が多い。
 残念なことだとつねづね思っている。この教科は本当は日常の生活の中にある事象そのものの確認で、もっとも身近にあることの「ナゼ」の勉強だと思っている。難しく考えることはないのだけれど実際は苦手とする子が多い。
 理科・算数を体験しよう、そう、体で皮膚で実感できればよい。理論は実感の上に乗ってくればよい。
 やじろべえをつくる。重力・重心なんてことは言わない。ひねくりまわした結果で重力・重心のあることを実感する。重りに換えて磁石を両端に取り付けてみる。南北にみんなのやじろべえが向きをそろえる。地球が磁石になっていることを知る。
 自分の手で工作したものが、機能を発揮して動作を開始する。ハッとした喜びがあって表情が輝く。以前はお爺いちゃん、お父さんが子供にこうした感動を伝えていたように記憶している。今は望めない。
手間はかかるけど実感と言う蓄積があれば理論や法則と言う「こむずしい」代物の理解はしやすくなるだろう。
 科学技術は実生活から離れてきてとっつきにくい分野になってきたのだろうか、そうは思いたくない、とっつけるトリガーがかかりにくい世相に今はなっているだけだと思う。
 人には、本来軽いノリを実現する能力がそなわっている。大げさにいうとこれは人の人たる遺伝子で、太古からの生存競争を生き延びてきた人類の財産といってもよいのではないかと考える。
 この思ったことを実現できる楽しさを子供たちに多少なりとも伝えられればといつも願っている。