美しい星空を次の世代にも残すために
                         ジョンソンコントロールズ㈱
                               オペレーションサポート本部
                                      棚田 英之
光 害
 馴染みの無い言葉かと思いますが、光害(こうがい、ひかりがい)とは、過剰な街明かりなどが天体観測や生態系に影響を与える現象のことで、近年ではエネルギー浪費の一部としても問題視されています。大都市での生活には利便性や犯罪抑制の観点からも街灯などはある程度必要ですが、必要以上の無駄な光は『光害』として規制する試みも始まり、天文マニアとしては喜ばしく思います。
 私は長年、計装の仕事に携わり、ビルの自動制御のさまざまな技術進歩を体験してきましたが、アマチュアの天体写真の世界にも近年、大きな技術革新が押し寄せてきています。本稿ではこれらの一端を紹介することで、計装関係諸氏に興味を持っていただき、更なる技術発展や光害抑制にも繋がればという思いもこめて、寄稿させていただきます。

元・天文少年
 私は、小学校高学年の頃に小さな天体望遠鏡を買ってもらったことをきっかけに天文に興味を持ち、中学高校時代は天文部に所属して部活動に没頭しました。
 育ったのは地方都市ですが、当時から大気汚染や光害は存在し、学校や自宅から肉眼で天の川が見えることはありませんでした。
 夏休みに郊外の山間地で合宿し、夜空の一部にいつまでも雲が浮かんでいるなどと勘違いしたのが、私が初めて見た天の川でした。
 上京し大学に入ってからは、個人活動が主体となり、時々光害を逃れて信州(乗鞍岳や八ヶ岳周辺)へ遠征しては天体観測を楽しんでいました。当時から天体写真用のカラーポジフィルムは普及していましたが、感度はASA(現在はISO表示)200程度しかなく、星を点像に写すには、赤道儀という架台を使って、ややボカした星像を接眼部の十字線に合わせ、数10分もの間手動でギアを廻し続ける必要がありました。
 撮影には体力と忍耐が要求され、とてもロマンチックとは言えないものでした。

黒い太陽
 社会人になると仕事や他の趣味で忙しく、旅行で地方に出かけた時に夜空を仰ぐくらいの頻度になり、天体観測からは徐々に遠ざかっていきました。
 ハレー彗星やジャコビニ流星群など、ニュースになるイベント時には、仲間達から声が掛かり、仲間たちと遠征などもしましたが、普段は月刊誌でコンテスト写真や高嶺の花の望遠鏡広告を見て細々と気持ちを繋ぐ程度となっていました。
 転機は、会社がリフレッシュ休暇制度を付与してくれたことでした。グッドタイミングで海外への皆既日食ツアーに参加する機会を得たのです。
 日本本土では2035年まで待たないと見ることができない、まさに神秘的な天文現象です。
 ほぼ毎年、地球上のどこかでは皆既日食を見ることはできますが、月の影が投影される直径数百キロメートルの範囲に行かなければ、皆既とはなりません。
 2012年の5月に日本で見えた日食は、地球と月の距離が遠く、月の見かけが小さいのでリング状の太陽が残る金環日食でした。
 一度、皆既日食中の太陽コロナや紅炎を見ると虜になると言われていましたが、私もこのツアーで目にして以来「日食病」にかかり、その後、エジプトと中国に遠征することになりました。












         皆既日食                          金環日食

天文趣味の本格再開
 直近の2009年の中国遠征は、残念ながら天候に恵まれず、皆既日食は見られませんでしたが、このことがきっかけとなり天体観測を本格的に再開することとなりました。この時の皆既日食は鹿児島県のトカラ列島などでも地理的な条件は合っていましたが、受入体制が整わず、多くの日本の天文ファンが上海周辺へのツアーに参加しました。
 この時3回目の海外日食遠征ということで、初めてデジタル一眼カメラを購入したのですが、帰国後、せっかく買ったカメラを眠らせるのももったいないと、福島県の南会津へ遠征し、何十年か振りに星座写真を撮影してみると、驚くほどきれいに撮影できました。僅か1分の露出で、学生時代だったら、数十分かけても得られないものが簡単に写ったのです。パソコンなどでデジタルの世界には親しんでいたつもりでしたが、映像の世界の技術進歩も侮れません。しかも、まだまだ、性能は日進月歩で向上しつづけています。
 天体写真を再開して間もないうちは、社内の後輩にあれこれ丁寧な指導を受けブランクの穴埋めをしてきました。まだ、本格再開してからは4年目ですが、インターネットで得られる情報も豊富なので、今では完全復活したと自負しています。
 新月前後の晴夜には真冬でも遠征に出かけるほどで、昨年末は房総半島のダム湖畔で除夜の鐘を聞きました。
 沢山の機材を車に運ぶのは一苦労でギックリ腰も経験しましたが、家族の協力もあり、平均月1回くらいは観測に出かけています。現地は街灯のない、暗くて寂しい場所なので、苦手な方も多いと思われますが、夜空を見上げていれば、そんな気持ちもどこかへ忘れさせてくれます。また、現地で出会った同好の方との交流も楽しんでいます。

天体写真の機材
 天体写真に使う機材は高価なものという印象がありますが、個人的には目的によってピンキリだと思います。趣味の世界なので、資金に余裕があり、最先端の機材を揃える方ももちろんいますが、私は学生時代に買ったものや、ネットオークションや中古で買ったものを改造して使っています。技術屋の端くれなので、オーバーホールなども楽しんでいます。
 星座写真や星景写真と呼ばれる分野は、一般的なデジタルカメラで十分楽しむことができると思います。三脚やシャッター用レリーズなどのアクセサリーがあれば、すぐにでもきれいな星空を手のひらに収めることができます。
 天の川や星座を点像に収めるには、数十秒以内の短い露出で切り上げる必要があり、もっとクッキリと写すにはモーターを内蔵した追尾装置が必要です。
 近年は専用のポータブル装置が製品化されているので、少しの投資でプロのような写真が撮れます。
 天体のクローズアップ写真を撮ろうとすると、本格的な望遠鏡や架台(赤道儀)が必要となりますが、過酷な使用環境(温度、湿度、夜露)なので、新品にこだわる必要はないと思います。ネットオークションなどでも盛んに取引きされており、手放す際も値下がりはほとんどありません。
 拡大領域の撮影には、追尾用カメラやパソコンも必要となってきますが、WEBカメラやWindows PCなどは中古品を廉価で入手することができます。












         撮影機材                         月面クレーター

天体写真のソフトウェア
 天体写真加工のソフトウェアの進歩も目覚しく、少しコツは必要ですが、微かに写った淡い天体を画像処理で強調すると、子供の頃、天文台が撮影して出版していたような写真をアマチュアレベルでも容易に作ることができます。
海外版のフリーソフトも多いので選択に迷うほどです。












        オリオン大星雲                      アンドロメダ星雲

計装技術との関連
 一般的な天体写真の作り方は、同じ被写体を複数枚、同一条件で撮影し、パソコンのソフトで合成することでノイズを軽減し、解像度を増すというものです。
 ここで一番苦労するのは、10分程度の露光中、正確に星を追尾することです。天体写真に写る星像は完全な点なので、許容誤差はごく僅かです。架台の機械的な精度や地球自転軸との平行据付精度だけでなく、風や上空の気流の影響、大気の屈折、北極星との離角など、多くの不確定要素があり、自動制御のパラメータが最重要となります。
 空調の世界でも、暖房、中間期、冷房、朝、昼、夜と極端に変化する負荷を全て賄えるパラメータは存在しないので、DDCコントローラにはオートチューニング機能が用意されていますが、チューニング開始のタイミングが難しく、利用範囲は限定的で、ある程度の妥協を余儀なくされています。
 追尾用のソフトウェアはフリーソフトが広く普及しており、同様のチューニング機能を持っています。
 対象を撮影する都度チューニングするのは不便なので、手動のパラメータがいくつか用意されており、パソコンと格闘する時もあります。
 読者諸氏に専門家がいれば、是非とも関与して改良をお願いしたいところです。

今後の展望
 チューニングがうまくいけば、追尾やシャッターはパソコン任せなので、夜空を見上げる時間もたっぷりとあります。流れ星に願掛けはしませんが、出会うと嬉しくなります。技術の進歩により、学生時代の努力や忍耐と比べると隔世の感があります。
 ハッブル宇宙望遠鏡やハワイのすばる望遠鏡など、世界最先端の大型望遠鏡で撮影する天体写真と競争しても無意味ですが、広域の対象を選べば、遜色のない写真を撮ることができます。アマチュアの趣味の世界は自己満足が最大の目的なので、学術性は気にせず、今後も自分の感性に合ったものを目指したいと思っています。
 加齢と共に体力が落ち、あと何年遠征して徹夜ができるのか気になりますが、チャレンジ精神を忘れず、2016年のインドネシア日食や2017年のアメリカ日食への遠征も密かに狙っています。また、マイ天文台を持つ夢も持ち続けています。
 健康に気を配りながら、生涯の趣味とする所存です。
 読者諸氏が夜空を見上げ、美しい星の輝きを後世にも残すべく、より一層のエネルギーの効率化、ひいては光害の削減にも関心を持っていただければ幸いに思います。

 (文中写真はすべて執筆者による撮影)