「キャブレターのお話し」
                                       四国計測工業株式会社
                               エネルギー・環境事業本部 電気計装部
                                           村越 信一

 趣味のオートバイについて書かせてもらいました。

 ここ10年くらいでしょうか、年々厳しくなる排ガス規制への準拠、低燃費の追求、安全性の要求により、近年のオートバイは自動車と同様に劇的に電子制御化が進んでおり、様々なセンサーとECU (演算処理装置)の進化により、FI(インジェクション)ABS(アンチロックブレーキ)、TC(トラクションコントロール)、ESA(電子制御サスペンション)などの機能を満載した電子制御の塊となりつつあります。
最近では倒れないオートバイなんていうものまで開発されつつあり、ライダーにとって屈辱的な立ちゴケまで防いでくれる機能も実用化されつつあります。
 さて、その進化の中でも特に燃料供給装置のインジェクション化はオートバイにとって画期的な進化でした。燃料供給装置とは燃焼させるためのガソリンを霧状にし空気に混ぜる量を調整する装置のことです。インジェクション化されるまでは今回のお話しであるキャブレター が使われてましたが、外気温度や気圧、雨などの外的要件の影響を受けやすく、特に冬場はエンジンに火が入りずらい状況になったりと何かと安定しないものでした。それがインジェクション化されるとECUが外気温度や排ガスのO2などから最適な燃料噴射量をコントロールするため始動性も良く、気温変化などにも柔軟に対応するためエンジンの調子が非常に安定し、かつ燃費も良いとキャブレターに比べ圧倒的に優れた装置なのです。

 それだけ優れた装置なのに、私は今だにキャブレターのオートバイに乗っています。
 イタリアのMOTO GUZZIという850ccの縦置きツインエンジンという他にはない珍しいエンジンレイアウトで、もちろん電子制御は何も付いていない40年ほど前のいわゆる旧車と言
われているものです。

 「何故、そんな古いオートバイに」とよく言われますが、現代のオートバイには無い魅力があるのです。

 例えば、先ほどインジェクションがキャブレターに比べ圧倒的に優れた装置と書きましたがキャブレターにも優れている点があります。
それは構造が簡単ゆえに故障しないこと。また、何か調子悪いなといった予兆があることです。インジェクションも故障する可能性は低いですが、いざ故障の場合はインジェクターが悪いのか、燃料ポンプが悪いのか、ECUが悪いのか素人では判断できないのでECUの履歴を見る診断装置を繋いで確認する必要があり個人で対応できないのです。また、不良と思われる部品はユニット単位で交換なので部品代も高くつきます。その点キャブレターは小さなパーツまで個別単位で入手できるので自分で修理することが可能なのです。

 キャブレターはインジェクションほど正確な制御はできません。1/1000mmの精度で精密加工された部品ではあるものの、環境条件が変わっても、その都度パーツを変えられないので、どちらかというとゆるい感じとでも言えば良いのでしょうか。日によって調子が良い悪いがある人間的な面があります。「今日は調子良かったね」とか、いつの間にかオートバイと会話しているような感じです。


 また、電子制御のアシスト機能もないのでコントロールするのは人間次第です。オートバイに乗ってる人はわかると思いますが、オートバイはスポーツで、シートに座ってるだけではなく絶えず重心を移動してカーブを曲がります。特に性能の劣る古いオートバイは高機能なサスも無いので絶えずタイヤから伝わる路面の状況を判断して重心を調整し、アクセルブレーキを制御する忙しい乗り物です。その乗っている感覚が古いオートバイをやめられない理由かもしれません。


 趣味性の高いオートバイなので自分で修理したり、メンテしたりするのも楽しみの一つだったりします。古いオートバイですと構造が単純で自己責任とはいえ結構なところまで自分でオーバーホールすることが可能です。
 最近はネットから様々な情報を入手可能でメンテナンスの方法や海外製のオートバイパーツも私のように英語が苦手でもGoogle先生がちゃんと翻訳して海外へ注文することができる便利な時代となりました。
 今の時代だからこそ専門のショップが近くになくて個人的なサンデーメンテでも維持できるのだろうと思います。


 何度か最新のオートバイに乗りましたが確かに速くて、楽に乗れて快適で自分の技術が上手くなったような感覚になりましたが、実際はオートバイがサポートしてくれているんだなと実感しました。それはそれで良いことで長距離をツーリングする場合など疲れず安全性に繋がっているのだろうと思います。
 ちなみに私もポンコツにキャンプ道具を積んで長距離ツーリングに出かけますが、その日の到着先を決めず、オートバイの調子を伺いつつ、行けるとこまで行く行き当たりばったりの旅になります。仕事じゃないので目的地や予定をきっちり決めず気楽な旅でいいんじゃないって感じです。
 取り留めのない話を書きましたが、最新のオートバイも古いオートバイもそれぞれ楽しみ方があるということを理解いただけたら幸いです。

最後に
 人生も折り返してから随分走ってきたような気がします。最近、ふとやり残したことはないかなと考えることがあります。
 まだまだ構想中で、妄想話ではありますが、昔読んだ「道、果てるまで:戸井十月」のようにユーラシア大陸3万キロを横断してみたいと密かに思っています。
 ウラジオストクからヨーロッパ最西端のポルトガルのロカ岬までオートバイで走破する。そこで余裕があったらアフリカ大陸を南下して南アフリカの喜望峰まで到達なんて考えただけでも楽しい妄想です。