活動名 | 『振動と計測 (計装) 機器』 講師 三興コントロール株式会社 計測制御サービス事業部 校正技術部 部長 田村 純 講師 |
実施日 | 平成30年(2018年)11月5日(月)14:00~17:00 |
場所 | ㈱九電工 福岡支店 1F 多目的ホール |
参加者 | 26名 |
主催 | 計装士会 |
協賛 | (一社)日本計装工業会 |
報告者 | 九州・沖縄地区担当幹事 今吉 俊博
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はじめに
九州・沖縄地区では平成30年度の活動として、11月5日(水)に上記内容にて勉強会を開催致しました。 以下に概要の報告を致します。
講演内容
テーマ 『振動と計測(計装)機器』
1.振動とは
1)振動とは
・振動とは、固体や液体が揺れ動く物理現象を意味しており、地盤や構造物に何ら かの力が作用したときなどに生じる周期的な位置変位の現象。
①人口振動 (機械起振) と自然振動 (地震動)
・振動
②音 (音楽、騒音、爆発空振)
・騒音などの音圧は方向の無く、大きさのみのスカラー量。
振動は大きさだけでなく方向も持つベクトル量。
・振動の性質もヘルツ (Hz)、デシベル (dB) で表す。
・Hzは振動する物体の1秒あたりの振動回数。dBは振動の大きさを表す単位で、 周 波数によって人に感じられ易さが異なるため、人の感覚に合わせ補正する必要がある。
・騒音の最小可聴値は0dB、人が感じる振動は55dBとされる。
2)振動の表し方とパラメータ
・振動の振幅というと通常は変位を指す。変位の振幅と言うと片振幅Dとなるが、 実際の振動の世界では全振幅(Peak‐Peak)で表示することもある。
・微小振動を測定する場合、加速度センサがよく用いられるため、「振動の大きさ」は加速度(実行値)で表すことが多い。
・加速度の単位ではGal(ガル、cm/s²)が有名。
・振動とは、物体が一点を中心としてその前後左右、または上下への運動を繰り返す状態をいい、一般に「振動数F」「変位D」「速度V」「加速度A」を用いて表す。
とくに「変位D」「速度V」「加速度A」の3要素が重要。
・変 位:振動の変位量を表し、その動きの大きさに直接関わる特性値を表す。回 転体のたわみ量、振れ量の評価に有効なパラメータで周波数には無関係。
SI単位:m 実用単位:cm、μm、nm
・速 度:振動する速さは振動エネルギーの大きさを表し、機械の摩耗や、劣化の進展度合いに関わる特性値を表す。ISOの振動評価基準がある。
SI単位:m/s 実用単位:cm/s、mm/s
・加速度:衝撃力の大きさに関わる特性値を表す、軸受け、ギアの傷、振動等の異常検出に有効な指標。
唯一トレーサビリティの担保が可能な量。
SI単位:m/s² 実用単位:cm/s²、Gal、G
・各パラメータ間の関係
微分 → 微分 →
変 位 速度 加速度
積分 ← 積分 ←
2.振動センサ
1)振動計測の基本
・振動量の計測における測定者(あるいは測定装置)は、空間座標において動かない点(不動点)にいなければならない。
このような不動点はばねとおもりか らなるサイズモ系で疑似的に作り出すことができる。
2)振動センサの原理と種類
① 接触方式 ――――②加速度検出――③サーボ方式
④圧電方式(速度も)
⑤ストレージ方式
⑥MEMS方式
⑦速度検出―――⑧導電方式
⑨ 非接触方式 ―――⑩変異検出―――⑪過電流方式
⑫静電容量方式
⑬光学方式(速度も)
・サーボ加速度計
加速度により生じた振子の変位を電気信号として取り出し、アンプで増幅した うえでトルカ部のコイルに流すことにより振子を元の位置に戻し保持続ける。
このコイルに流した電流は加速度に比例することを利用するセンサ。非常に高精度高安定、計測範囲はDC~数百Hz。
・圧電センサ
センサ内部に錘とケースに挟まれた圧電素子が加速度により伸び縮みしたときに出力した電荷を利用し加速度を測定するセンサ。小型化できる。カタログ仕様はDC~となっているが、実際はその構造から100Hz程度から計測が信頼できる。
・動電センサ
直線振子タイプは慣性おもりを共用したコイルをダイヤフラムバネやコイルバネで支持し、マグネットとの間で直線往復運動を行わせ電圧出力させるセンサ。
高感度で直線範囲が広いので回転機械設備の劣化の検出に適している。構造上、取り付け方向、取り付け角度に制限がある。
・渦電流センサ
センサコイルより高周波磁束を発生させ、金属表面に渦電流を発生させ、その 大きさが距離により変化することを利用したセンサ。
・静電容量式センサ
センサと測定対象物によって形成される平行コンデンサの静電容量からギャッ プ(変位)を測定するセンサ。
・レーザードップラー振動計
センサヘッドからレーザ光を振動物体に照射し、振動物体から反射したレーザ 光の周波数変化を測定するセンサ。
3)ハンディ型振動計の特徴
・設置方法
① ネジ固定 ②瞬間接着 ③両面テープ ④絶縁アタッチメント
⑤マグネットアタッチメント ⑥棒状アタッチメント
・絶縁されていないものでモーターなどの測定は注意が必要。漏れ電流でセンサが壊れることも。
4)地震計
・サーボ速度型地震計。
・落球式地震計。
・現在の地震計はSI系のトレーサビリティが担保されていない。
3.振動の計測と校正
1)振動量のトレーサビリティ
・校正対象機器のことをDUTと記述する。
・一般的に振動の大きさをdBで表示することが多い。
・dBは人の振動公害に関する測定などに用いられ、人間の感じ方を考慮して帯域制限フィルタで周波数フィルタをかけている。
・広く世間で行われている振動試験は相対量であるdBを使用しているため、トレーサビリティは確保されていない。
・振動のトレーサビリティの担保は振動加速度(m/s²)のみで、dB量を絶対量である振動加速度量に変換する必要がある。
・振動加速度の国家標準 ⇒ 光計測機器を使用
・振動加速度の標準供給 ⇒ 1次校正された振動計にBack to Backで2次校正する。
・従来はdB管理による基準検査制度が主体で曖昧な対応。強度振動系では振動加速度量のみトレーサビリティが担保されている。
・低周波領域(4~200Hz)の水平姿勢による標準値の供給をNWIJから受けているいるのは国内で三興コントロール株式会社のみ。
・現在はNMIJの低周波直流標準から4~10Hzの交流電圧標準の供給を受けている。
(過去はDAkksからの供給を受けた)
・周波数標準はJEMICから供給を受けている。
2)トレーサビリティの担保
① 標準値のトレーサビリティ
⇒計測機器(モノ)のトレースではない
② 人の計測・校正技術の連鎖
⇒人の技量の連鎖も重要
③ 現場の計測手段とのつながりを明確にすること
④ 振動レベル(dB)ではトレーサビリティが取れない
⑤ 現状、国内では低周波振動の校正で5~10Hz領域は曖昧
またその「姿勢」も問題にされていない。
・どの様なセンサ・計測機器、校正機器でも使用目的とする数値に関係するデータは必ず標準にトレースする必要がある。
・振動量変換センサとして3つの標準が必要
①振動加速度量 ②信号の大きさ(交流電圧) ③信号の周波数
・交流電圧標準に対する要望として 10Hz以下の低周波域で交流電圧計の校正ニーズがある。
・代表的標準研究機関においても交直変換方式において10Hz以下の校正能力はない。
3)TSI(タービン監視計器)
・タービン運転時、軸が伸び、振動が発生する
・変位=長さの量で管理
・3種類の監視計測機器
① 振 動 計 :回転体のバランス監視(動的ラジアル変位)
⇒ 2軸(垂直、水平)の振動 +α
② 伸 び 計 :回転体の熱による伸びを監視
③ 伸び差計:回転体の相対位置の監視(静的スラスト変位)
・回転体は望ましい動作をしているかどうかを監視する必要がある。
その為に、 「振動速度」や「振動変位量」を計測する
4.可搬型振動校正装置
1)校正の重要性
・現在の品質管理の潮流は「試験、検査」から「校正」へ
・その為に「トレーサビリティの担保」は必須
・電力関係の規格・基準では「校正」が明記されている
・現場のセンサの校正は「On-site」「In-situ」が理想
・検査・試験は校正が源
2)計測値の信頼性
・標準振動発生装置を可搬型にすれば振動情報のループ(系)としての信頼性の確認が可能。
・電力会社によっては、ループ(系)としての信頼性の確認をしていない会社もある。
つまり振動計の単体校正のみで、系としての信頼性確認の考えを持ってい ない。
3)ループ校正の考察
・現状はルート2乗法を採用し、“カタヨリ”のみの情報で計算している
・観測データの“バラツキ”情報は考慮していない
・本来の「ガウスの誤差の伝播則(ルート2乗法)」は観測データの“バラツキ” が主たる要素
・本当のループ校正では”バラツキ“と”カタヨリ“の検討が必要
4)振動計校正装置開発の経緯
・校正用ではなく試験・検査用の認識が強い
・低周波領域(5~10Hz)の加振、振動は無評価!
・トレーサビリティには興味?無し
・インフラ分野(電力、ガス、上下水道)に余り興味なし
・設置環境の床振動(暗振動)対策には無頓着!
・市販の振動計試験・検査装置の特徴
① 低周波(5~10Hz)領域において性能不足
② 一部の領域において直線性無し
③ トレーサビリティの担保は?
④ 「校正」に関しての認識不足
⑤現場向きでなく、取り扱いが面倒臭い
・可搬装置としての大きさ
・設置場所での外乱(気温、暗振動)対策
⑥負荷質量(DUT)の対応不足
・現場型は防爆仕様で重い(~800g
5)振動計校正装置開発の採った対策
・加 振 部 :冷却ファンが使えない、ネオジウム永久磁石の採用
・標 準 振 動 計:信頼性の高いサーボ加速度計を内蔵
・計 測 制 御 部:デジタル回路を採用し、信頼性の向上を図った
・外 乱 対 策:共振周波数、グランドノイズ(暗振動)対策で特殊 防振ゴムを採用
・冷却ファンの除去:振動発生源となる為
・軽量化を図る :労働安全規則の存在
6)開発モデル
・HVC-100:水平加振と垂直加振兼用モデル
・HVC-200:垂直加振専用モデル
・HVC-300:水平加振専用モデル
7)本装置の優位性
・最小の構成による校正装置(2ユニット)
標準器も内蔵している(Back to Back方式)
・低周波(5~10Hz)領域で振動加速度のトレーサビリティを担保している国内では唯一の校正装置
・多種多様の大型回転系の振動計に対応可能
・非接触型の変位計の校正も可能な構造
・国内優先特許確立
8)課題と今後の展望
・校正範囲を1~4Hzと200~2000Hzに拡張
・社内での受託校正時の基礎(大地)振動の低減
・需要があれば0.01~1Hz間での加振装置の開発?
・弊社のお客様の制御用・計測用「地震計」の管理値と要求仕様の調査と、目標 とする仕様の決定
5. 3.11と加振試験
1)背景
・3.11の地震後、BWR原発は水素ガス発生時の対策から新システムの発生水素ガスベント(排気)システム関係の計装機器、電気機器の振動試験を、3.11を考慮した形で行う必要が出てきた。
2)鉛直加振動電式振動試験装置
・磁界の中で電気伝導体(コイル)に電流を流し、振動する力を発生さる。コイル に発生した力は伝達する可動部や治具に供試品を搭載・固定して振動させる。
3)治具
・冶具は剛性を持たせ、冶具の共振振動数を加振する振動数範囲より高い振動数にする必要がある。
・共振振動数を上げるのには、小型化、軽量化、強度と剛性の確保が必要。
・軽量化の為にはアルミ製に冶具が適している、一般的には板厚15mm以上が望ましい。
⇒加工が削り出しのみに限られ難あり
・DUTが現場でどう取り付けられているか?どう振動を受けるかを考慮し、DUTの重心を考慮し設計加工する必要がある。
・鉄製を採用。但し、溶接に伴い磁気を帯びるため脱磁処理を行った。
4)共振探査の重要性
・固有振動数を求めることは機械設計を行う上で非常に重要。共振は機械の性能を損ない破損の原因につながります。従って機械は運転範囲において共振が発生しないように設計する。
5)加振試験
・加振方向:水平2方向と垂直方向の同時加振
・加振試験の手順
① 加振前の校正(健全性確認)、他の性能試験
② 3軸での掃引加振で共振周波数の探査
③ もし共振点が存在しなければ客先指定周波数で加振
④ 3.11では指定周波数(3.11想定の5倍以上の30G)にて限界加速度で加振する
・加振試験の仕様例
① 外観確認 :いわゆる外観の目視
② 動作機能試験:校正と試験が主体
③ 指示精度試験:指示機能があるものについて
④ 警報遅れ試験:2値動作機能を持つ機器について
⑤ 絶縁抵抗試験:電気、電子回路の健全性確認
⑥ 耐電圧試験 :電気、電子回路の健全性確認
⑦ 共振検索試験:固有振動数の有無
⑧ 耐加速度(限界)試験A ⇒ 指定加速度、周波数
⑨ 耐加速度(限界)試験B ⇒ 指定加速度、周波数
6)その他
・フィールドサービス対応機器の紹介
・ストップウォッチの校正の紹介
・2019年5月21日にSI単位の定義改訂のお知らせ
所 感
今回の勉強会では、振動と計測(計装)機器という題目のもと、振動センサに関する基礎知識、トレーサビリティの問題点と振動に関する実務の紹介などの項目をこの分野のエキスパートである講師の方が深く掘り下げてご説明頂きました。難しい内容を素人にも分かるよう丁寧に、また易しい表現でご説明頂き、とても興味深く耳を傾けていました。
ご多忙中にもかかわらず、講師をお引き受けいただきました田村講師に厚くお礼申し上げるとともに、今後とも益々のご活躍をお祈り申し上げます。
以 上