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コラム

Enclosure

ジョンソンコントロールズ株式会社

営業推進統括本部 設計統括部

井村 雅英

1.はじめに
 読者の皆さん、「エンクロージャ(Enclosure)」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。ある自己紹介の時に、「私の趣味は、エンクロージャを自作することです。」と言っても、ほとんどの方が首をかしげたことを思い出します。
 これからご紹介する「エンクロージャ」とは、スピーカユニットを収納し、ユニット本来の性能を発揮させるための箱のこと言います。

2.エンクロージャの役割
 ほとんどの方は「スピーカ」というと、四角い形をした音の出る箱というイメージがあるのではないでしょうか。
 もし、スピーカユニットをこの箱に装着せずに単独で音に変換しようとすると、振動板の前面から出る音と後面から出る音が干渉し、思ったより小さなしかも低音が含まれない音となってしまい、いわゆる良い音を再生することができません。
 そこで、後ろから出る音を箱の中に閉じ込めることで、前から出る音だけが視聴者の耳に届くようにするわけです。

3.エンクロージャの種類
 では、どんな箱でもよいのかといいますとそうではありません。実は期待するスピーカユニットの性能を十分に発揮できるように綿密な設計が必要となります。今回は設計方法などの詳細は割愛させていただきたいと思いますが、エンクロージャの主な種類と特徴をいくつか紹介させていただきます。

・ 密閉型
 図 -1のようにスピーカユニットの後側から出る音を箱で完全に封じ込めるタイプのエンクロージャです。単純な構造で大きな容積になるほどスピーカユニットの本来の音質を再現できるといわれています。

・バスレフ型
 図 -2のように密閉型の箱の前面に計算されたサイズのダクトを取り付けたエンクロージャです。これは、エンクロージャ内部の容積とダクトの空気抵抗によって、特定範囲の低音がダクトを通して前面に放出されるようになりますので、効果的に低音部分が増強される効果があります。小口径のスピーカユニットの低音を再生しにくい欠点を補う場合に採用されます。

図-1 密閉型
図-2 バスレフ型

・バックロードホーン型
 図 –3のようにスピーカ背面の音を徐々に断面積が広がる音道を通って前面に放出させる構造で、効率よく低音を増強するエンクロージャです。音道がラッパ(ホーン)の形状であるために、特徴的な音質となります。

図-3 バックロードホーン型

4.オーディオネットワーク
 次にスピーカの構成についてご紹介します。
 スピーカユニットの種類には、低音から高音までを一つのユニットで再生するタイプの「フルレンジ方式」とそれぞれの音域に特化したユニットを複数組み合わせた「マルチスピーカ方式」があります。聞いたことがあるとは思いますが、低音域用を「ウーハー」、中音域用を「スコーカ」、高音域用を「ツィッター」と呼んでいます。
 このマルチスピーカ方式では、それぞれのスピーカユニットに特定の周波数に限って信号を分配するための電気回路が必要となり、エンクロージャ内部にコンデンサやコイルを組み合わせたフィルタ回路を組み込む必要があります。

5.趣味としてのエンクロージャ作り
 10年ほど前に少々時間や金銭的に余裕ができたせいかエンクロージャ作りを再開することができました。
実際のエンクロージャ作りは、設計、材料の調達、加工(ほとんど手作業)、そして組み立てを行いながら、並行してオーディオネットワークの設計、製作、最後に塗装仕上げなど、比較的広範囲で製作期間も場合によっては半年ほどの作業となります。
そして、何といっても一番の楽しみは初めて音を再生する瞬間なのですが、期待通りの音が出てくれると苦労もひとしおです。

6.最後に

 いくつか製作したスピーカの紹介をさせていただきます。

  1. 少々大きめ(床置き)のスピーカセットですが、非常に気に入っております。中段のホーンは集積材を張り合わせた上に削り出した力作です!
  2. 卓上タイプスピーカセットです。7枚のフィンで構成された音響レンズで高音域到達範囲を左右に広げる効果があります。
  3. 自分用TVの外付けスピーカセットで、左右の低・中音用のスピーカと左右共通の低音スピーカを組み合わせた2.1chタイプです。
    なお、左上のスピーカは、6.5cmユニットでバックロードホーンを作ってみました。
  4. JBL Paragon 実物は横幅が2mを超えますが、1/5に縮小しました。スマートホンをつないで再生できるようにデジタルアンプを内蔵しています。
写真-1
写真-2

写真1:ALTEC A700 1/2スケールモデル
16cmウーハー(フロントホーン・バスレフ型)+ ウッドホーン + 2.5cmホーンツィッター

写真2:10cm(フロントホーン・バスレフ型) + オーディオレンズ付き4cm
ドームツィッター

写真ー3
写真-4

写真3:2.1ch 10cm, 6.5cmフルレンジ(ダブルバスレフ型) + 2.5cmドームツィッター、20cm密閉型ウーハー、写真内左上:6.5cmフルレンジ(バックロードホーン型)

写真4:JBL Paragon 1/5スケールモデル5cmウーハー(内蔵) + 2.5cmスコーカ + 2cmドームツィッター(内蔵)

【執筆者紹介】

井村 雅英(いむら まさひで)

ジョンソンコントロールズ(株)

営業推進統括本部 設計統括部